Seattle · 読み物記事

シアトルの歴史旅の前に知っておきたい5つのこと

🏙 歴史・都市 📖 読了目安 6〜8分 📍 シアトル

なぜパイオニア・スクエアの地下に「もうひとつの街」が眠っているのか。なぜ北の果てのこの港町が、金鉱掘りたちであふれたのか。そしてなぜ、コーヒーとソフトウェアと音楽がここから世界へ広がったのか。材木の積み出し港として始まった街は、大火と好景気を経て何度も姿を変えてきました。5つのポイントで、シアトルの歩みをたどります。

1
先住民の土地と、材木の港町

ピュージェット湾のほとりには、はるか昔から沿岸の先住民の人々が暮らしていました。豊かな海と森に恵まれたこの土地で、彼らはサケを獲り、杉の巨木から家やカヌーを作ってきました。シアトルという街の名は、入植者と交流のあった先住民の指導者の名に由来します

19世紀半ば、入植者たちがこの湾に製材所を開きます。背後に広がる巨大な針葉樹の森が、街の最初の富となりました。切り出した丸太を斜面から湾へ滑り落として船に積む——その「丸太を滑らせた道」が、今のパイオニア・スクエア周辺です。街は材木の積み出し港として、湾に面した斜面に生まれました。

Key Points
  • 街の名は先住民の指導者の名に由来する
  • 最初の産業は森から切り出す材木だった
  • 湾に面した斜面が街の始まりの場所

2
大火と、かさ上げされた街

1889年、シアトル大火が街を襲います。木造の建物が密集していた中心部は、ほぼ焼き尽くされました。しかし人々はこれを街を作り直す好機と捉えます。再建では木造を禁じ、レンガと石の建物を建てました。パイオニア・スクエアに残る重厚な街並みは、このときのものです。

さらに大胆だったのが、低地の地面そのものをかさ上げしたこと。もともと海に近く水はけの悪かった土地を、道路ごと一段高く造り直したのです。その結果、もとの1階部分が地下に埋もれ、旧市街がそのまま地下に残りました。今もその地下空間を歩くツアーがあり、地上の街の下にもうひとつの街が眠っているという不思議な体験ができます。


3
ゴールドラッシュが生んだ好景気

1897年、北のクロンダイク(現在のカナダ・ユーコン地方)で金が発見されたという報せが、この港に届きます。金を求める人々が全米から押し寄せましたが、富を築いたのは金鉱掘りよりも、シアトルの商人たちでした

極寒の北へ向かう者は、大量の食料と装備を携行することが義務づけられていました。その物資を売り、船を出し、宿を貸したのがこの街です。「アラスカへの玄関口」としてシアトルは爆発的に潤い、人口も急増。港と鉄道が整備され、小さな材木の町は一気に近代都市へと姿を変えました。金脈そのものではなく、金脈へ向かう人々を支えることで栄えた——シアトルらしい商才の物語です。

Key Points
  • 1897年のクロンダイク金鉱発見が転機になった
  • 物資供給の拠点として街が急成長した
  • 「アラスカへの玄関口」という立ち位置を得た

4
航空機産業と、1962年の万博

20世紀に入ると、この地で創業した航空機メーカーが街の基幹産業となります。第二次大戦とその後の航空需要で工場は拡大し、シアトルは「飛行機の街」として全米に知られるようになりました。技術者が集まり、街の性格も工業都市へと変わっていきます。

その繁栄を世界に示したのが1962年の万国博覧会。「21世紀」をテーマに未来の暮らしを描いたこの博覧会のために建てられたのが、スペース・ニードルとモノレールでした。今も街のシンボルであり続けるあの塔は、宇宙時代への楽観に満ちた時代の記念碑なのです。会場跡地は公園と文化施設が集まるシアトル・センターとして、市民に使われ続けています。


5
コーヒー、ソフトウェア、そしてグランジ

1970年代、パイク・プレイス・マーケットの向かいに小さなコーヒー豆の店が開きます。それがやがて世界中に広がる巨大チェーンとなり、シアトルは「コーヒーの街」の代名詞になりました。同じころ、この地域に拠点を置いたソフトウェア企業が世界のIT産業を牽引しはじめます。

そして1990年代、キャピトル・ヒルなどのライブハウスから、グランジと呼ばれる音楽が世界へ飛び出しました。曇り空の多い街の、内向的で率直な感情を鳴らすようなその音楽は、時代の空気を変えました。材木の港から、金鉱の補給地へ。飛行機の街から、コーヒーとソフトウェアと音楽の街へ——シアトルを歩くとは、何度も新しい産業と文化を生み出してきた街のしなやかさに触れることなのです。

歩くときのヒント パイオニア・スクエアで大火と再建の跡をたどり、パイク・プレイスでコーヒー文化の原点に触れ、シアトル・センターで万博の夢の跡を見上げる。丘の上のキャピトル・ヒルまで足を延ばせば、音楽の街の空気も感じられます。エリアごとに違う時代が層になっているのが、この街の面白さです。
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