ザルツブルクの食は、アルプスの山の恵みと、宮廷が磨いた菓子の伝統が出会う場所にあります。修道院が営む古いビアガーデン、モーツァルトの名を冠したチョコレート、ふわりと山の形に焼き上げるデザート——重厚な肉料理だけでなく、甘いものとカフェの文化を知ると、この街の味わいはぐっと深くなります。
ザルツブルク周辺の山岳地帯では、寒い気候に合った力強い郷土料理が育まれてきました。代表格はカースノッケン(Kasnocken)。すいとんに似た生地に山のチーズをからめ、香ばしく焼いた揚げタマネギを散らした一皿で、素朴ながら後を引く味わいです。
肉料理では、パン粉の衣をまとった仔牛のカツレツヴィーナー・シュニッツェルがオーストリア全土の定番。また、茹で牛肉ターフェルシュピッツは皇帝フランツ・ヨーゼフが愛したことで知られる、上品な宮廷由来の料理です。山あいの街らしく、川や湖で獲れるマス(Forelle)のグリルも新鮮でおすすめです。
オーストリアはビール文化の国でもあります。ザルツブルクで飲むなら、地元の醸造所シュティーゲル(Stiegl)が街の定番。そしてもうひとつ、旅行者にぜひ体験してほしいのがアウグスティーナー・ブロイシュテュブル(Augustiner Bräustübl)です。
ここは修道院が営む1621年創業の巨大なビアホール。石造りのジョッキ(クルーク)を自分で棚から取り、洗い場ですすいで、樽から注いでもらうという独特の作法があります。栗の木陰のビアガーデンには、パンや冷肉、グリルを売る屋台が並び、好きなつまみを買って持ち込むスタイル。地元の人と長テーブルで肩を並べる、飾らない夜がここにあります。
ウィーンと同じく、ザルツブルクにも格式あるカフェ文化が根づいています。新市街のカフェで一杯のメランジェ(泡立てたミルク入りコーヒー)を頼み、新聞を片手にゆっくり過ごすのがこの街の贅沢な時間の使い方です。
旧市街のカフェ・トマゼッリ(Café Tomaselli)は1700年創業、街でもっとも古い珈琲店のひとつ。モーツァルト一家も通ったと伝わる歴史ある空間で、木の盆に載せて運ばれるケーキから好きな一切れを選びます。コーヒーには必ず小さなグラスの水が添えられる——この作法もウィーン文化圏ならではです。
ザルツブルクの甘い名物といえば、まずモーツァルトクーゲル(Mozartkugel)。ピスタチオ入りマジパンをヌガーで包み、チョコレートでコーティングした丸い一口菓子です。1890年にザルツブルクの菓子職人が考案したのが始まりで、いまも手作りを続ける元祖の店「フュルスト(Fürst)」の銀と青の包み紙が本家の証。土産物店に並ぶ金色の量産品とは別物です。
もうひとつ、レストランでぜひ試したいのがザルツブルガー・ノッケルン(Salzburger Nockerl)。卵白を泡立てて山の形に焼き上げた巨大なスフレで、粉砂糖を雪のように振りかけた姿は、街を囲む三つの山(と伝えられます)を象っています。焼きたてを2〜3人で分ける、熱いうちに味わうデザートで、注文から時間がかかるので食事の前半にお願いしておくのがコツです。
オーストリアのレストランはランチが12〜14時、ディナーが18〜21時ごろが中心で、その間は温かい料理を出さない店もあります。人気店や音楽祭シーズンの夜は予約が安心です。カフェは比較的長時間開いており、食事の合間の休憩に便利です。
チップは合計額の5〜10%程度を目安に、支払い時に切りのよい額へ「これで」と伝えて渡すのが一般的。テーブルに小銭を置くより、会計時に金額を伝える方がスマートです。水道水は飲めますが、レストランでは有料のミネラルウォーターを頼むのが通例です。