ミュンヘンの食はビールと分かちがたく結びついています。白ソーセージは正午までに食べ、ビールは1リットルのジョッキで、栗の木陰の長テーブルで見知らぬ人と肩を並べて——料理そのものより、その「作法」と「場」にこの街の文化が宿ります。重厚な肉料理のイメージの奥にある、バイエルンの食の楽しみ方を知っておきましょう。
ミュンヘンで食事といえば、まずビアホール。世界的に有名なホフブロイハウスは、かつて宮廷の醸造所だった歴史を持ち、生演奏の響くホールで観光客も地元客も入り混じって賑わいます。ビールは1リットルのジョッキ「マース(Maß)」が基本単位。「アイネ・マース、ビッテ(1リットルください)」と頼めば一人前です。
夏ならビアガーデンへ。栗の木陰の長テーブルは、この街独特の平等な社交場です。自分の食べ物を持ち込んでよいのがビアガーデンの伝統で(ビールは必ずその場で買う)、市場で買ったパンやチーズを広げる地元の人の姿も。相席が当たり前で、隣に座れば自然と「乾杯(プロースト!)」が始まります。
バイエルンの名物といえば、白くやわらかなヴァイスヴルスト(白ソーセージ)。仔牛肉とパセリで作るこのソーセージには、有名な言い伝えがあります。「白ソーセージは正午の鐘を聞いてはいけない」——冷蔵技術のなかった時代、その日の朝に作って傷む前に食べきる必要があったため、伝統的に午前中の食べ物とされてきたのです。
食べ方にも作法があります。皮は食べず、ナイフで切って中身をすくうか、皮を吸って中身を出す(ツッツェルン)。甘いマスタード(ゼンフ)を添え、ブレーツェルと白ビール(ヴァイスビア)を合わせるのが正統です。朝のビアホールで白ソーセージと白ビール——旅行者もこの「バイエルンの朝食」を体験できます。
しっかり食事をするなら、バイエルンの豚肉料理が王道です。カリカリの皮がたまらない豚のローストシュヴァイネブラーテン、骨付き豚すね肉をこんがり焼いたシュヴァイネハクセ——どちらもボリューム満点で、ビールとの相性は抜群です。
付け合わせの主役はクネーデル(Knödel)。じゃがいもやパンで作る大きな団子で、肉汁やソースを吸わせて食べます。ソーセージなら、ニュルンベルク風の小さな焼きソーセージブラートヴルストや、赤いカレーケチャップをかけた屋台の定番カリーヴルストも。市場や広場の軽食スタンド(インビス)で気軽に味わえます。
肉とビールだけがミュンヘンの味ではありません。旧市街のヴィクトアリエンマルクトは、200年続く常設市場。チーズ・ハム・焼き菓子・季節の果物の屋台が並び、中央のビアガーデンで買ったものを食べられます。立ち食いのスタンドで、焼きたてのソーセージやスープを軽く一杯——地元の人の昼のスタイルです。
甘いものなら、ウィーン文化圏に連なるカフェとケーキの伝統もあります。りんごを薄い生地で巻いたアプフェルシュトゥルーデルや、ミュンヘン発祥の揚げ菓子アウスツォーゲネなど、コーヒーと合わせて午後の休憩に。市場の喧騒から一歩入ったカフェで一息つくのも、この街の楽しみ方です。
ビアホールは通し営業の店が多く、ランチもディナーも柔軟です。ただし人気店やオクトーバーフェスト期間の夜は予約が安心。相席が基本で、空いた席に「ここ空いてますか?」と一声かけて座るのがビアホール・ビアガーデンの流儀です。ただし「シュタムティッシュ(Stammtisch)」と札のある常連予約席には座らないよう注意。
乾杯のときは相手の目を見てジョッキを合わせるのがドイツ流。チップは合計額の5〜10%を目安に、支払い時に切りのよい額を伝えて渡します。ドイツは現金文化が根強く、ビアガーデンの売店や市場の屋台は現金のみが多いので、小額紙幣と小銭を用意しておきましょう。