韓国料理は「一皿を頼んで、一人で食べきる」料理ではありません。 無料で並ぶおかず(パンチャン)、鋏で切り分ける肉、鍋を囲む距離感 ——料理そのものより、食べ方に文化が宿っています。焼肉だけがソウルの味ではないことを知ると、食の旅は何倍にも豊かになります。
韓国の焼肉店では、店員がテーブルに来て大きな鋏で肉を切り分けてくれます。日本のように一切れずつ焼くのではなく、大きな塊のまま焼いて、頃合いを見て切る。この段取りが、脂を逃さず旨みを閉じ込めます。
脇腹の三枚肉を焼くサムギョプサルは、韓国でもっとも日常的な外食です。焼き上がった肉をサンチュやエゴマの葉に載せ、味噌だれ(サムジャン)とニンニク、そしてキムチを一緒に包んで、一口で頬張る。「包む」という所作こそが、この料理の本体です。仕上げに残った脂で炒飯を作ってもらうのが定番の締めになります。
席に着くと、頼んでもいない小皿が次々と並びます。キムチ、もやしのナムル、煮豆、卵焼き——これがパンチャン(おかず)です。原則として無料で、多くの店ではおかわりも自由。宮中料理の膳立てに由来するとも、貧しい時代に主食を引き立てるために発達したとも言われます。
大切なのは、パンチャンは「取り分けて食べる共有の皿」だということ。自分の匙で直接すくって構いませんが、食べきれない量を残すのはもったいない。足りなければ声をかけると、たいてい笑顔で足してくれます。
焼肉は基本的に複数人の食事です。ひとり旅なら、汁物とご飯の店が心強い味方になります。牛骨を白濁するまで煮出したソルロンタンは、塩と刻みネギで自分好みに整えて食べる、優しく滋味深い一杯。
豆腐と海鮮を辛いスープで煮立てたスンドゥブチゲは、鍋が沸騰したまま運ばれてきます。生卵を落として半熟にし、白飯を少しずつ浸しながら食べるのが作法。どちらも一人前から注文でき、カウンター席の店も多く、言葉が不安でも指差しで頼めます。
夕方の明洞では、メインストリートに屋台が並びます。トッポッキ(甘辛い餅炒め)、ホットク(黒糖入りの焼き菓子)、卵パン、串もの——立ったまま食べ歩くのが流儀です。
一方、100年以上の歴史を持つ広蔵市場は昼の顔。緑豆をひいて焼くピンデトクの匂いが立ち込め、のり巻きを一口大に切って和えた「麻薬キンパ」に行列ができます。屋台の椅子に地元の人と肩を並べて座り、マッコリを一杯——これがソウルの食のもうひとつの中心です。
韓国では器を持ち上げず、卓に置いたまま匙(スッカラ)で食べるのが基本です。ご飯と汁物は匙、おかずは箸。匙と箸を同時に握らないのがきれいな所作とされます。
目上の人がいる席では、その人が箸をつけてから食べ始め、お酒を注がれるときは両手で杯を持つ。細かく気にする必要はありませんが、知っていると席の空気がやわらぎます。