ミラノの食はパスタよりも米、そして夕方の1杯から始まります。黄金のリゾット、象の耳のカツレツ、発祥の地のアペリティーボ——伝統と最先端が同居する、北イタリアの食都を味わい尽くします。
ミラノの食卓の主役は、パスタではなく米です。ポー川流域はヨーロッパ最大の米どころで、サフランで黄金色に輝く「リゾット・アッラ・ミラネーゼ」はこの街の看板料理。ドゥオーモのステンドグラス職人が、顔料のサフランを賄いの米料理に入れたのが始まり——という愛すべき伝説が残ります。
定番の相棒は、仔牛すね肉の煮込み「オッソブーコ」。骨の中の髄をすくって食べるのが正式な作法で、リゾットに載せた一皿はミラノ料理の完成形です。
骨付き仔牛肉を叩いて薄く伸ばし、バターで揚げ焼きにする「コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ」。皿からはみ出す大きさから「象の耳」の愛称で親しまれています。
ウィーンのシュニッツェルとどちらが本家かという論争は有名で、ミラノ側は「1134年の修道院の記録が最古」と主張します。真相はさておき、パン粉の衣とバターの香りは、オーストリア支配時代の文化交流の証であることは確かです。
夕方、バーでドリンクを1杯頼むと軽食が付いてくる「アペリティーボ」はミラノ発祥の文化です。その主役が、1860年代にミラノで生まれた赤いリキュール「カンパリ」。ガッレリア脇の老舗バー「カンパリーノ」は、その聖地として今も健在です。
「夕食前の1杯」を社交の時間に変えたこの習慣は、いまやイタリア全土、そして世界へ広がりました。
ドライフルーツ入りのドーム型発酵菓子「パネットーネ」はミラノ生まれ。スフォルツァ家の宮廷で、失敗した菓子を厨房係の少年トニが即興で焼き直した——「パン・デ・トニ(トニのパン)」が語源という伝説があります。
クリスマス菓子として世界に広まりましたが、近年は職人パティシエによる通年パネットーネがブームに。老舗菓子店では季節を問わず、しっとりと香り高い「本場の一切れ」に出会えます。
ドゥオーモ近くの老舗「ルイーニ」に行列を作らせるのが、揚げパン生地にトマトとモッツァレラを包んだ「パンツェロッティ」。プーリア発祥ながら、ミラノの立ち食いおやつとしてすっかり定着しました。
一方でミラノはイタリア随一のミシュラン星付きレストラン密集地であり、世界中の美食が集まる実験場でもあります。伝統の郷土料理から最先端のガストロノミーまで——「古いミラノ」と「新しいミラノ」を一日の食事で行き来できるのが、この街の食の醍醐味です。