シンガポールの食文化は、
中華・マレー・インド・プラナカンという4つの食文化が国是として共存する
、世界でも稀有な形で発展してきました。ホーカーセンター文化とその成り立ちを知ると、食の旅が何倍にも深まります。
「ホーカーセンター」は、かつて路上に点在していた屋台を、衛生管理のために1970年代に政府主導で集約した屋内型フードコートです。冷房のない開放的な空間に多国籍の屋台がずらりと並ぶスタイルは他国にあまり例がなく、2020年には「シンガポールのホーカー文化」としてユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
1皿数百円からという手頃な価格で本格的な各国料理が楽しめる点も大きな魅力。マックスウェル・フードセンターやラオパサなど、地元客・観光客双方に人気の施設が市内各所にあります。
シンガポールには公式な「国民食」は定められていませんが、「海南鶏飯(チキンライス)」はその筆頭候補として名前が挙がる料理です。茹でた鶏肉と鶏の出汁で炊いた米飯をショウガダレやチリソースで食べるシンプルながら奥深い一品で、中国海南島の料理をルーツにシンガポール流にアレンジされています。
もうひとつの人気候補が、ココナッツベースのスパイシーなスープ麺「ラクサ」。中華とマレーの融合から生まれたプラナカン料理の代表格で、地域によって味付けが異なるのも食べ比べの楽しみです。
大きなカニをトマトベースの甘辛いソースで炒め煮にする「チリクラブ」は、観光客にも人気の高い豪華な一皿です。手を汚しながら殻をむいて食べるスタイルで、余ったソースは「マントウ(揚げパン)」に絡めて食べるのが定番。値段は張りますが、シンガポールらしい豪快な食体験として一度は試す価値があります。
チャイナタウンだけでなく、インド系文化の中心地「リトルインディア」、マレー・イスラム文化の中心地「カンポングラム」も徒歩圏に点在し、それぞれ本格的な現地料理を味わえます。フィッシュヘッドカレーやビリヤニ、ナシレマ(ココナッツライスの定食)など、多民族国家ならではの食の幅広さを実感できるのがシンガポール旅行の醍醐味です。
1915年、ラッフルズホテルのロング・バーで生まれたとされる「シンガポールスリング」は、ジンをベースにザクロシロップやパイナップルジュースを合わせた鮮やかなピンク色のカクテルです。当時、女性が人前で酒を飲むことがはばかられた時代に、フルーツジュースに見せかけて作られたという逸話も伝わっています。今も本店のロング・バーで味わうことができ、殻付きピーナッツを食べては床に殻を捨てるのが伝統的なスタイルです。