リスボンの食卓には、大航海時代に世界中から集めた食材と、大西洋に面した漁業国ならではの海の幸が息づいています。エッグタルトだけがリスボンの味ではありません。バカリャウ文化とタスカでの過ごし方を知ると、食の旅が何倍にも深まります。
リスボン土産の代名詞「パステル・デ・ナタ」は、もともとジェロニモス修道院の修道士が考案した菓子だと言われています。修道服の糊付けに卵白を大量消費していたため、余った卵黄の使い道としてカスタードタルトが生まれたという説が広く伝わっています。
1837年創業の「パステイス・デ・ベレン」は、修道院から伝わったとされる門外不出のレシピで今も焼き続けており、本家として観光客・地元客の両方に愛されています。街中で見かける「パステル・デ・ナタ」は一般名称で、店ごとに味や食感が異なります。
ポルトガル料理を象徴する食材が、塩漬けにして乾燥させた鱈「バカリャウ」です。面白いことに鱈はポルトガル近海ではほとんど獲れず、歴史的にノルウェーやカナダ・ニューファンドランド沖から輸入されてきました。保存が利くことと、カトリックの断食日に肉の代わりとして重宝されたことから、国民食としての地位を確立しました。
「バカリャウには1年365日分、365通りの調理法がある」と言われるほどレシピが豊富で、家庭ごと・レストランごとに得意料理が異なるのも楽しみのひとつです。
大西洋に面したリスボンでは、新鮮な魚介の炭火焼きも欠かせません。中でも「サルディーニャ・アサーダ(塩焼きイワシ)」は初夏の風物詩として知られ、特に毎年6月に開催される守護聖人祭「サント・アントニオ祭」の時期には、街のあちこちの路地でイワシを焼く煙と香りが立ち込めます。
安価で庶民的な魚ですが、脂が乗った旬の時期のイワシは特に美味とされ、粗塩を振ってシンプルに焼くのがリスボン流です。
リスボンの街角には、立ち飲みでショットグラス一杯のさくらんぼ酒「ジンジーニャ」を提供する小さな専門バーが点在しています。ロシオ広場周辺の老舗店が特に有名で、チョコレートのカップに注いでもらえる店もあります。
ワインは北部原産の微発泡の若飲みワイン「ヴィーニョ・ヴェルデ」が食中酒の定番。厳密にはポルト(ドウロ地方)が産地のポートワインも、リスボンのワインバーや展望スポット(ミラドウロ)で気軽に楽しめます。
「タスカ」と呼ばれる家族経営の小さな食堂は、リスボンの食文化の基盤です。黒板に書かれた本日のメニューを頼み、地元客に混ざって気取らず食事するのがリスボン流の楽しみ方。近年は「プティスコ」と呼ばれるポルトガル版タパスをシェアするスタイルも人気が高まっています。
観光客向けの選択肢としては、旧市場を改装した「タイム・アウト・マーケット(メルカド・ダ・リベイラ)」も便利で、著名シェフの店が集まるフードホール形式で複数の料理を少しずつ試せます。