ブダペストの食文化は、パプリカの赤と温泉の湯気、そして廃墟バーで飲むワインの香りが入り混じってできています。「海外で食べるグヤーシュ」と「本場のグヤーシュ」が実は違うものだと知ると、食の旅がぐっと面白くなります。
世界的に「ハンガリー料理」の代名詞となっている「グヤーシュ(グーラッシュ)」ですが、実は海外のレストランで提供される濃厚なシチュー状の料理と、ハンガリーで実際に食べられているグヤーシュはまったく別物です。
本場のグヤーシュは、もともと牛飼い(グヤーシュ)たちが野外で作っていたスープ料理。牛肉・玉ねぎ・パプリカ・じゃがいもなどを煮込んだ、さらさらとした食感のスープです。濃厚なシチュー状の料理は、ハンガリー語では「ペルケルト」という別の料理名で呼ばれます。
ハンガリー料理の赤い色と風味の源であるパプリカは、単なる辛味の香辛料ではなく、甘口から辛口まで幅広い種類が使い分けられる「国民的食材」としての地位を確立しています。市場ではパプリカの粉末が何種類も並び、料理によって使い分けられています。
ブダペストの大市場ホール(グレート・マーケット・ホール)では、色とりどりのパプリカが軒先に吊るされた光景を見ることができ、この食材への並々ならぬこだわりを感じられます。
街角の屋台でよく見かける「クルトーシュ・カラーチ(煙突ケーキ)」は、生地を筒状の型に巻きつけて回転させながら炭火で焼き上げる、ハンガリーの伝統菓子です。焼き上がった生地は、砂糖・シナモン・ナッツなど様々なトッピングをまぶして仕上げられます。
焼きたての外はカリッと香ばしく、中はふんわりとした食感は、寒い季節の街歩きにぴったりの温かいおやつです。
ユダヤ人街に集まる「廃墟バー(ロムコチュマ)」は、社会主義時代に放置されていた老朽建築や空き地を、若い起業家たちが安価に借り上げて改装したことから生まれた文化です。統一感のないミスマッチな家具、壁一面の落書きやアート——その雑多でカオスな空間そのものが最大の魅力になっています。
ハンガリー東部の産地で造られる貴腐ワイン「トカイ」は、フランス国王ルイ14世が「王のワイン、そしてワインの王」と称賛したという逸話で知られる、世界的に評価の高い甘口ワインです。特殊なカビ(貴腐菌)がブドウの糖度を極限まで高めることで生まれる、蜂蜜のような濃厚な甘みが特徴です。
力強い赤ワイン「エグリ・ビカヴェール(雄牛の血)」とあわせて、ブダペスト市内のワインバーでは手軽に本格的なハンガリーワインの飲み比べができます。